常陸の家 築60年古民家移築プロジェクト

超長期住宅普及の為に

超長期住宅普及の為に

これからの家づくり


これまで建物の構造的耐久性と断熱性能の関係について慎重に検討して建物づくりを続けてきました。その結果、断熱材の種類や納まりを工夫することで室内の温熱環境の安定化と同時に、構造材が長期的安定して機能し続ける事が分かってきました。
超長期住宅を実現させる為には、大規模な改修工事の間に発生する仕上げや設備などの小規模改修時に構造躯体を極力痛めない為の工夫が重要です。
それらに対応するため、常陸の家では断熱材までを構造体と考え「改修しやすい納まり」で設計計画しています。

建物は定期的にメンテナンス、改修することで長く使い続ける事が可能になるのです。

日本の住宅の寿命は約30年と言われています。その理由として家の耐久性と世代交代による家族構成の変化があげられています。
これからの家づくりで最も重要なポイントは「改修しやすい柔軟な家」だといえます。

耐震性について

耐震性について

新築同等の耐震性を確保

  • 改修工事ですが、建物を移動するため新築扱いとなり現在の建築基準法に合わせて耐震性も確保しています。
  • 移築後の建物には新たにコンクリートべた基礎を設けて耐力壁のバランス等も配慮しています。
  • (画像 上)が改修前の耐力壁位置です。地震に耐える壁が少ないのが分かります。この年代に建てられたこの手の家はたいてい南側に大きな掃き出し窓が付いていて壁が少ないのではないでしょうか。そこで、新たに壁を設けました。(画像 中)
  • 当たり前の事ですが耐震性についての検討はこの家に限らずすべての物件に対して基本計画時に行います。

構造を分ける。

  • 「常陸の家」では築60年の家を再利用する移築部分と新築する部分があります。(画像 下)年数が違う分、寿命も違って来ると考え、構造を移築部分と新築部分とで分けました。遠い将来、どちらかが取り壊す事になったとしても残った建物だけで地震に耐える造りになっています。

0001.JPG改修前0003.JPG改修後IMG_0004.JPG改修後

耐久性について

耐久性について

基礎が大事

  • 建物の構造的耐久性は基礎の寿命が尽きると致命的で大規模な基礎改良工事が必要になってきます。それを考慮して「基礎外側断熱工法」を採用しています。

基礎外側断熱の効果。

  • 基礎外側断熱を採用することによって、コンクリートの熱ストレスがほとんど発生しないためコンクリートのひび割れの発生を抑える事ができます。
  • 基礎の外側が外気に触れないため、中性化の速度を遅らせる効果も期待できます。

グラスウールによる基礎外側断熱

  • 常陸の家では「超撥水グラスウールボード」を使用しました。基礎完了後に止め付けて、樹脂モルタルで仕上げます。グラスウールはシロアリの食害が少ない断熱材で、排水性を確保すれば長期間性能を維持できる優れた特徴を持ちます。また、この方法は既存の基礎への断熱改修工事にも有効な工法です。(画像上 グラスボードによる基礎断熱)
  • シロアリの食害が少ないとはいえ、万が一の為に「シロアリがえし」なるものを取り付けました。(画像中 シロアリ返しの検討スケッチ)(画像下 シロアリ返しの施工後)

性能評価

  • 劣化対策等級3以を確保

39基礎DSCN6191.JPG基礎断熱IMG_7916.JPGシロアリ返し

維持管理のしやすさについて

維持管理のしやすさについて

道連れ工事を最小限にする

  • 最近のローコスト系住宅には、将来小さな改修を行うときに床から壁・天井へと道連れ的に工事範囲がふくらみそうな部分が多く見られます。それに対して古い民家は畳をめくっても壁を傷めません。改修時に構造体が痛まない様な配慮と、道連れ工事を最小限にする納まりを設計に組み込む必要があります。

床下配管

  • 人が入ってメンテナンスが出来るくらいの床下スペースを設け、暖房設備や配管などを設置します。

電気配線工事と断熱工事の分離

  • 通常の方法だと壁内に断熱材を充填するため、電気配線の処理がかなりの手間になります。その上、将来改修時に変更する可能性が高い電気配線が断熱性能の確保に必要な防湿シートを破かなければ作業できない位置に来る恐れがあり、改修工事のたびに建物の性能が悪化するのが目に見えています。壁内に湿気が進入しやすくなることは構造躯体の耐久性に与える影響は大きいです。
  • 「常陸の家」では断熱材と防湿シートまでを躯体と考えて、外部に貫通する電気配線以外は、壁内に配線することを禁止しています。室内側のボード下地に配線用の胴縁を作ってこの隙間を配線スペースに利用する「電気配線用胴縁工法」(画像)を採用しています。
  • この「電気配線用胴ぶち工法」は断熱工事終了後に電気工事を行うことになるため、スイッチやコンセントの変更にも対応可能であるメリットがあります

性能評価

  • 維持管理対策等級3を確保

IMG_7453.JPG「電気配線胴縁工法」

省エネ・断熱性能について

省エネ・断熱性能について

次世代省エネルギー基準とシミュレーション

  • 建物の断熱性能は次世代省エネルギー基準(常陸太田市・いわき市では等級4)を確保すれば室内の温度差が少ない環境になって快適になります。
  • しかし、これまで様々な現場でエネルギー消費量のシミュレーションや実測を行った結果、この程度の性能で全室暖房を行うとエネルギー消費量が大幅に増加することが分かってきました。
  • 常陸の家ではNPO法人新住協と室蘭工業大学鎌田研究室の協力を得て、年間の暖房エネルギー消費量のシミュレーションを行い、省エネで快適な家づくりの計画をしました。
  • たとえば、常陸の家は太平洋側の地域であり冬期間の日射量が期待できることから、室内から熱が逃げる「熱損失量」と南側の窓の関係とか、どの部分の断熱性能を確保すると効率的かなどのシミュレーションを重ね、慎重に計画をしました。

断熱仕様について。

  • これまでの経験で、次世代省エネルギー基準Ⅳ地域(いわき市など)で住宅を計画するとき、Ⅱ地域対応(青森など)の性能を確保すると、灯油で換算した場合の年間消費エネルギー量は1㎡当たり4㍑以下で全室暖房が可能となります。

基礎外側断熱 超撥水グラスウール厚さ100㎜
屋根断熱   高性能グラスウール厚さ200㎜充填断熱
天井断熱   高性能グラスウール厚さ250㎜吹込み断熱
外壁断熱   高性能グラスウール厚さ120㎜充填断熱+30㎜外断熱

  • 断熱ブラインドの設置、北側には熱が逃げにくい木製トリプルサッシ、南側の窓は逆に太陽熱を取り込みやすいガラスを使用します。
  • 以上の断熱で建物を覆うと、Q値(熱の逃げる速さを比較するための単位。数字が小さいほど熱が逃げにくい)は1.9になり、Ⅱ地域対応の建物となります。

壁内結露を起こさない。

  • 建物の耐久に悪影響を及ぼすとされる室内の湿気を壁の中に入れない屋内側防湿層の設置、外壁側には外壁の内側に通気層を設けることにより構造躯体を壁内結露から守り、建物の寿命を延ばす効果が期待できます

グラスウールにこだわる理由

  • グラスウールはガラスを溶かして綿状にしたリサイクル品です。
  • 経年変化が少ない材料です。
  • 他の断熱材と比べて比較的価格が安く、ローコスト化が期待できます。
  • 他の断熱材に比べて耐火性も期待できます
  • 将来、解体するとき構造体と断熱材を簡単に分離することができます
  • デメリットとしては、きちんと施工をしないと性能が発揮しないのです。常陸の家の大工さんは断熱工事が初めてだったので、今回は勉強のために断熱施工のプロにお願いしました。おかげでびっくりするほど綺麗な仕上がりになりました。

性能評価

  • 省エネルギー対策等級4を確保

IMG_7836.JPG外断熱 30㎜IMG_7432.JPG天井断熱と通気層

快適性について

快適性について

冬の暖かさ

  • 冬の間、どこにいても寒くない快適な温度を保つため「床下温水暖房」を利用した全室暖房を採用しています。

床下温水暖房にこだわる理由

  • 床下温水暖房とは、40℃~50℃の不凍液で暖める床下設置型のパネルヒーターです
  • 暖かい空気は上に登る習性があるので温風が出る暖房だと頭上が暑く、足下が寒くなる現象が起きます。床下温水暖房はほわっとした暖かい空気がゆっくりと上がってくるので快適な暖かさを作る事が出来ます。
  • 基礎断熱にすることで床下コンクリートが蓄熱体となり 床下に低温の熱源を配置し安定した温熱環境が実現できます
  • 低い温度で暖房可能ですので室内がオーバーヒートする心配が少なく、床暖房ではないので、メンテナンスも容易です。
  • 温水暖房ですので、将来の熱源はどんなものでも対応可能。また、火を使わないので暖房をつけたまま外出をしても安心です。
  • ヒーター本体は床下空間に納まるので夏の間も暖房を炊いている冬の間も邪魔になりません。
  • 建物の断熱性能を計算し、ガラリの位置や戻りガラリ、吹き抜け等を設けるなど空気の流れを計画当初から検討しないとオーバーヒートを起こしたり暖房の機能をしなくなる恐れがあるので注意が必要です。

夏の風の流れと快適性

  • 常陸の家は東側竹林から心地の良い風が常に吹き上がってくるのが分かりました。それを利用して東側に大きな窓と防犯上開け放しにしても問題のない小さな窓を設けました。この小さな窓を開けておくと竹林からの涼しい風が通り抜けるのでエアコンいらずになる予定です。
  • 断熱性が高いと外気の影響も受けにくく、夜冷えた室内は午前中窓を開けなくても比較的ひんやりとした室内になります。
  • 軒の出を深くし、直射日光による熱を防ぐ計画をしています。軒を出す事は、外壁の耐久性も高める効果も同時にあります。

IMG_7671.JPG床ガラリIMG_7538.JPG脱衣場 温水パネル

デザインと景観への配慮

家のデザインと景観への配慮

街並みに配慮する

  • 常陸の家周辺は日本家屋が建ち並ぶ美しい街並みを見ることができます。地域の風景との調和を大切にする意味からも、現況の真壁・差鴨居・しっくいの外壁などの美しい構造を生かしたデザインを出来る限り保存するよう計画しています。
  • また、軒の深い民家には空調設備が無い時代でも快適に過ごすための知恵が蓄積されてあり、地域の気候にあったそれらのデザインも大切に保存したいと考えました
  • この美しい街並みも、「街並みを守る」という意識が低ければいとも簡単に壊れてしまいます。街全体で景観を守るという意識が広まればおのずと「常陸の家」のような家の寿命は延びていきます。「常陸の家」がそのような古民家のお手本になれば幸いです。

IMG_7236.JPG常陸の家周辺の景観

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